「春野様でしたら30分ほどくらい前に
今夜ご宿泊のお部屋へと戻られましたよ」


今ごろ部屋でゆっくりお休みになられているのでは?


その後すぐ、急いでフロントのある場所へと駆けつけ、事情を説明したものの

受付の人からはこんな回答があっさりと返ってきた。


その事実に、横では翔がますますイラッ…、と来てるのを必死にワナワナとこらえている様子の中

今もカウンター越しでは
ニコニコと営業スマイルを向けるスタッフに
焦ったわたしはここから身を乗り出して言う。


「あ、あの…できたらその部屋、何号室なのか教えてもらえないですか?
実はわたしたち春野先生のこと探してて、今すぐ呼びにいかないといけなくて…」

「春野様のご宿泊されているお部屋でしたら3021号室ですが…」

「ありがとうございます!」


ようやく春野先生の居場所が分かり、

スタッフの人にお礼を告げたわたしは、翔と一緒にこの場からダッと勢いよく駆け出した。




「あ~ら二人とも、仲良くおそろいで。
わざわざあたしのいる部屋まで訪問しにやって来て、…いったい何の用?」


エレベーターをのぼり、すっかり息を切らしながら、
さっそく部屋の前へとやって来たわたしたちは、思い切ってインターホンのボタンを押す。


するとしばらくして
さっきまで口にふかしていたと思う、少し短くなったタバコの根を指先で挟んだまま
どこかフンと不敵に笑う春野先生が現れた。


見るものを圧倒させるような、その強い貫禄と立ち振る舞いに、

その場ですっかり立ちすくんだわたしは、思わずゴクッと息をのみこむ。


「今日はその組み合わせ?
そういえば前、保健室に来たときは
たしか…“直哉くん”て言う男の子もいたはずだったと思うんだけど。あの子はどうしたの?
それともあたしの、気のせいだったかしら」


何にせよまぁ、最近の高校生はムカつくらいマセてんのねぇ




もしやこれはイヤがらせなんじゃないのか

一瞬ここにいるわたしと翔の顔を、ジロりと目定めしたあと

なぜかそこでいきなり直哉くんのワードを出してきた先生に、わたしの顔が一気にサー…ッと青ざめる。



「……」

(せっ、先生…)


な…な、ななんでよりにもよって今ここでわざわざ直哉くんの名前を…;

しかもタイミング的に全然、笑えな…


予想外の展開にダラダラと冷や汗が出て、思わず言い訳しようとしたわたしに、

後ろでジッと黙りこんでいた翔がまるでそれをさえぎるかのように、こう口を開いた。


「あ…」

「や、その件に関してはもう俺が今日、本人からきっぱり断られてんで。
こっちももう吹っ切れてますし。
んなことより、小崎先生がアンタのこと探してましたよ。
のんきに、んな場所でコソコソサボろうとしてねーで、さっさと行ってやった方がいんじゃないんすか」