「…いいっすよ」


いたたまれず、ついそこから目を顔ごと背けていると

しばらくして…翔がボソリと口にするように言った。


思いがけないその返事に、

わたしはひとり押し閉じていた目をとっさにハッと見開く。



え…――?



「良かった!ありがとね。
これでようやくわたしも安心して準備に戻れるわ」

「ちなみにどこ行きゃ居るんすか、その春野とかっつう変な先生」

「詳しくはわたしもよく分からないんだけど
春野先生のことだから
ホテルにある、ロビーの喫煙スペースにでも居るんじゃない?」


そのことに驚いて、思わず顔を向けたわたしをよそに

意外にも、和気あいあいとした様子で翔に話しかけてる小崎先生。


しばらくの間、その光景を一人あっけに取られたままボンヤリ見ていたあと

わたしはとっさに、自分の胸の内へ問いかけるかのように焦って首をかしげた。



“…いいっすよ”



え…

ほ、ほんとに?


――ほんとにイイの?;


わたしの聞き間違いだったとかじゃないよね…?



内心、半信半疑になりながら
それでも、隣では今もあっさりと会話を進めていく二人。


その様子を自分だけ拍子抜けしたように、すっかりポカンとした目で見ていると

なにやら一通り話を聞き終えた様子の翔が、再びこっちを向いて言った。



「加奈子」

「!」

「早く来ねーと、置いてっから」



たった一言、どこかそっけない素振りで口を開いたかと思うと

あっさりフイとわたしから背を向ける。


そのままスタスタと歩き始めて行ってしまった翔に

思わずハッと我にかえったわたしは、慌てて自分もここを駆け出した。



「あっ……、う、うん!」