「―――」
このとき、三浦さんの口から初めて聞かされた一言に
わたしはまるで鈍器で頭を強くなぐられたような衝撃を受けて。
あまりのショックで声も出せずにいると
三浦さんは、なおもこう続けて説明してみせた。
「もちろん、翔が高橋さんを好きだったのは知ってるし、
しかもずっと前から想い続けてきた人を、そんな簡単に忘れられるはずないのも十分わかってたから、
いずれ時期を見て、ちゃんと伝えようかなくらいは思ってたんだけど。
でもあのあと…初めてあんなに落ちてる翔を見たら、何だかすごいほっとけなくて」
「……」
「だからあのとき言ったの。
高橋さんのことはもう忘れて、あたしと付き合わない?って」
“ねぇ翔くん、あたしと付き合おう?
今はまだ、ほんとにあたしのこと好きじゃなくてもいいから”
“……”
「もちろんそのときは、すぐにイイ返事はもらえなかったし、
何も言ってくれなかったんだけど。
なぜか急に気が変わったのか、ホテルへ向かう途中、とつぜん“分かった”って言ってくれてね」
そこまで話しを聞かされたときにはもう、わたしは何も考えれなくて
もう何も、耳に入ってこなくて。
今も目の前では三浦さんが何かを話してる間も
ただ足の力だけが、一気にストンと抜けてくる。
足元がフラついて
まっすぐちゃんと、立てない…
“実はねあたし
翔と付き合うことになったの”
「……」
そっか
そう、なんだ
そうだったんだ……
翔が、三浦さんと――……
“でもさぁ正直あたし、翔くんは三浦エリと付き合ってんだと思ってた”
“それあたしも!
てかあの二人、絵てきにもすっごいお似合いだよね!”
“分かる分かる!あのペアなら釣りあいも取れてるし超納得!”
そのままひとり放心状態のわたしに
一通り話し終えた様子の三浦さんは
「あ、お金、ありがとね」と思い出したように明るく伝えると
手にしていたお財布を、バッグの中へとしまいこむ。
そしてもう自分の部屋へ戻らなければならないのか、
いったんクルッとわたしに背を向けたかと思うと、ポツリとこうつぶやいたんだ。