「……」



え…――?



その言葉に一瞬わたしの動きがピタリと止まって。


思わずハッと顔をあげたわたしに
三浦さんは特に気にする様子もなく、続けてこう説明してみせた。


「もともと向こうは自分のぶん払ってあるし
手持ちだってそんな持ち合わせてないはずなのに、あたしの分まで出してくれるなんてさ、
そんなの悪いからいいって断ったんだけど。
いーから出すって言って聞かなくて」


結局、あたしが払わなくちゃいけない分のうち、3分の2くらいは翔が負担してくれることになったんだけど…

ああ見えて実は結構強情なとこ、あるんだなって
なんだかちょっと…ビックリしちゃった。


そう言って
困ったように眉を下げてみせながら…
でもどこか嬉しそうにはにかんで翔のことを話す三浦さんに

わたしはこらえきれずとっさにこう口走る。



「…っなん、で……?」

「え?」

「な、なんでいきなり翔のこと、その、呼び捨て……」



“待って翔くん…!”




だってあの時は…


今日のお昼、お店を出ていった時までは

たしかに翔のこと、ああやって呼んでたのに……


そう思ったらつい感情的になって明らか焦った口調のわたしに

三浦さんはしばらく「?」と首をかしげていたかと思うと
すぐに「あぁ」と大きく頷いてみせた。



「…あ、そっか。そういえば高橋さんたちにはまだ、このこと話してなかったよね」

「……?」

「って言ってもこっちもついさっきの出来事だし
ほんといきなりで、あたし自身正直まだ信じられないって感じなんだけど」



ドクン、ドクン…



三浦さんのこれから言おうとする言葉に、

一瞬…さっきわたしの真横を冷たく素通りしていった翔の姿が思い浮かんで、心臓の鼓動が速くなる。


そのままひとり身動きが取れなくなるわたしに、
三浦さんはゆっくりと赤らめていた顔をあげてみせたかと思うと、嬉しそうにこう言ったんだ。



「実はね、あたし
翔と付き合うことになったの」