「はい」


このときひどく慌てていたせいか、とっさに部屋からドアスコープで外の様子を確認することもせず

ガチャッ!と勢いのまま目の前のドアをこじ開けた瞬間、そこに立っていたのはなんと、あの三浦さんで。


その直後――思わず「!」と体を硬直させたわたしに
三浦さんはニコッと微笑んだ。


「み、三浦さん…」

「ごめんねいきなり。
今フロントの人に事情説明して、今夜高橋さんたちの泊まる部屋がここだって聞いて来たんだけど…」


結局どの部屋なのか最初よく分かんなくて
さっきまですごい迷っちゃった。


困ったようにそう笑い
三浦さんは「そうそう、それでね」と優しく言葉を付け加えながら

持っていたバッグからキレイなお財布を取りだしてみせたかと思うと
何やら唐突に「ハイ」とだけ言って、大きな小銭を差し出してきた。


「…?お金?」

「ほら、今日のお昼、あたしだけ途中お会計払わなかったでしょ?
あれ、高橋さんたちにまで最後余分に出してもらっちゃったって聞いたから。
今日のうちにちゃんと、返そうと思って」


あとで忘れないうちに
今高橋さんたちからお昼借りてた分とそのお礼代、渡しとくね。


やわらかな口調でそう言って
差し出したお金をなかば強引にギュッ、と握らせてきた三浦さんに

わたしはとっさに断ることもできず
押されるまま結局、おずおずとそれを受け取る。


「…あ、ありが」

「あっ、そうそう。あとこれ、翔の分」