「実は、あの日の試合中…
広瀬くんから俺に対して、妙な対抗意識みたいなものをずっと感じてたんだ。
その日はお互い、チームが対戦同士だったにしても、
あれは単なる敵対心なんかじゃなかったっていうか…。
さすがに最初は、俺の気のせいだと思ったし、
勘違いだと思って、なるべく気にしないようにしてたんだけど。
…でもやっぱ違うって感じて」
「……」
「だから試合の最後、ほんの試すぐらいの気持ちで聞いてみたんだ。
やたら俺に対してムキになってる理由は
もしかして、俺と同じ班にいる――加奈子ちゃんが関係してるんじゃないかって」
“…広瀬くんだっけ?
そこまでして、キミがやたら俺にムキになってる理由って
もしかして、――加奈子ちゃん…?”
今初めて聞かされる直哉くんからの話に
わたしはただ愕然とするしかできない。
しばらくの間、わたしはひとり言葉を失っていたあと、
声を震わせたまま、とっさにこう尋ねた。
「翔は、なんて…?」
「……」
「そのとき翔は、なんて言ったの…?」
ドクンドクン…
あまりの緊張に、うまく息が出来なくなる。
ジッと顔をあげて止まったまま
不安げな表情で見つめるわたしに、直哉くんはこう言った。
「…動揺してた。すごく」
「…っ」
「だからその日の夜
電話で、二人は昔からの幼なじみなんだって知ったとき
広瀬くんと加奈子ちゃんの間には、ぜったい何かあると思ったんだ」
ごめん、今までずっとこのこと黙ってて…。
今まで何度か言おうと思ったんだけど…やっぱり、言えなかった。
話していくうちに、その日の事を思い出してなのか
どこか複雑な表情を浮かべてそう打ち明ける直哉くんに、
わたしは返す言葉が見つからない。
「……」
“そこまでして、キミがやたら俺にムキになってる理由って
もしかして、――加奈子ちゃん…?”
そんな…
知らない。
――全然、知らなかった…。
だって翔は、あのときわたしに……
“俺の体を心配するヒマがあったら、まずは自分の身の心配をしろよ”