「? 何か今、音しなかった?」

「えっ、うそっ?
もしかして矢野セン?!やばっ、バレた?」


何の前触れもなく、いきなり襖をガン!と叩く音がして
ビクリと一瞬、見回りの先生がやって来たのかと思いきや

それからはいっさいシン…、と静まりかえって、全く音沙汰のない様子に
この部屋にいた全員がいっせいに「?」と顔をかしげる。


その瞬間
わたしは勢いよくここからバッ!と立ち上がっていた。


「あっ、か、加奈子っ?」

「もっ、もしかして直哉くんかも」


わたし出る…!


そう言ってわたしはタッと一目散に駆け出すと、あさみちゃん達の声も聞かず
急いで襖の取っ手口に腕を伸ばす。


そのままおそるおそる襖のそでを少しだけ開けて、外の様子をのぞいてみると

時刻は夜の0時をまわり
消灯時間はもうとっくに過ぎてしまったからなのか、

10時前にはまだちゃんと点いていたはずの、通路上にある天井の明かりは全部電源がオフにされ、

間隔を開けて設置されてある、壁下の非常用ランプだけがところどころに小さく光っていた。


「……っ?」


明るい部屋からとつぜん真っ暗な暗闇を見たことで
とっさに視界の色がくらむ中

それでもすぐ目の前には、どこか直哉くんにも似た広い面影が映った気がして…


「あっ、直哉くんおかえ…、――!」


とっさに嬉しくなってそのまま襖を大きく開けようと顔をあげた瞬間
わたしは思わず息をのんだ。


…だって、実際そこにいたのは

あの直哉くんでも

見回りの先生でもなく…


“他の女子メンもいるっつーか、
一応マドンナたちも来るって話だからさ”


今ごろなら絶対、下の304号室に集まって、
健くんや他の女の子たちと大騒ぎしているはずの


「翔…」

「……」


幼なじみの翔、だったから……。