「…あ、良かった。加奈子。
何だか帰ってきた時よりも元気そうじゃない。起きてたの?」

「あ、うん。ごめん。
今同じ高校の人と話してて…」

「電話…?もしかしてお隣の翔くん?」

「へ?!ち、ちが…!違うよ!
てか何でそこで翔の名前が出てくるの?」


部屋に入ってくるなり
信じられないことを口にしだしたお母さんに、わたしは思わずカッとなる。


するとお母さんはとたんに困った様子で両手を組んだかと思うと
壁際にソッとよりかかった。


「なんでって、幼なじみの翔くんも加奈子と同じ高校入学してたんでしょ?
だからてっきりそうなのかと…。
しかも今朝、広瀬さん宅のお母さんから、初めてその話聞いてビックリしちゃったわよ。
あなた、その事なんにも言わないんだもの」

「……」


…い、言うも何も
別に、言う必要なんかないし…


ブツブツと、そんなことを一人ぼやいていると

隣でお母さんはあごに指を当てながら
何かを思い出すようにこう言った。


「翔くんは昔からサッカーが得意だったから
将来はそっち方面の道に進むと思っていたけど。
よくよく考えてみれば、当時はそのことで何だか考え込んでる様子だったから
翔くんなりに考えた結果なのかもね」

「……翔が?」

「そう。でもあのとき加奈子、受験に必死そうだったからあえて言わなかったんだけど。
…だいたい去年の今ごろかしら?
庭の花壇のお手入れをしている最中に、制服姿で帰ってくる翔くんを見かけてね…」