「もう帰るのー?」

「……」

「ぶっちゃけあなたの方が直哉くんよりも重傷なんだから。
しばらくはここで安静にしてろって
あれほど念を押したはずだけど」

「…こんなん、ほっときゃ治りますよ」


しばらくの間、長い沈黙が続いたあと

突然ボソッと
まるではき捨てるようにそう呟いた翔は、わたし達へ背を向けたまま再び歩きだす。


「広瀬くん」


そのままドアノブに手をかけて部屋を出ていこうとした翔に

タバコの根本を指先にはさんで唇から離した先生が

白い煙をフゥーっとはきだしながらこう言った。


「あなたはまだ若いし、そうやってイキがるのが別に悪い事だとは言わないけど。
…実際は立つのもやっとなくせに
そう何でも強がって意地張ってばかりだとね、
治さないでもいいところまで傷口が広がって、自分自身だけじゃなく、あなたの大切な誰かまで深く傷つけることになるわよ」

「……」


! え…?


先生の意味深な発言に、わたしの体がピクンと反応する。

だけど翔はそんな先生の言葉に対して一切、何も答えようとはせず

一瞬、先生がいる方を振り返り
ギロッと強くこちらを睨みつけてきたかと思うと
「ガチャッ」と乱暴にドアをこじ開け部屋を出ていく。



キーンコーン

カーンコーン



考えもしなかった今のこの状況に
わたしの体はこわばって止まったまま…


たった今ちょうど

昼休みの終わりを知らせるチャイムの鐘が
開いた隙間から響いて聞こえてきたのと同時に



――バタン!



わたし達のいる部屋のドアが
ひどく冷たい音を立てて、閉まった気がした…――。