「!」


そう思った瞬間
わたしは繋いでいたはずの直哉くんの手を、とっさに振りほどいていた。

そのまま顔を背けてうつむくわたしの行動に
目の前にいた直哉くんが顔をあげる。


「加奈子ちゃん…」

「……」


うそ…

翔、いつからいたの?

まさかずっと“そこ”に居て…?



“わたしは、直哉くんのケガの事がその、心配で……”


“サッカーの試合
直哉くんのチーム、その…ま、負けちゃったけど
でも最後の最後で直哉くんが蹴ったボール、
本当はあれ、ちゃんと…入ったんだよ”


“だからその…
元気、出してほしい…”



全然、気づかなかっ――



「しょ、翔……」

「たっだいまー♪」



しばらくの間
三人の間にどこか重苦しい空気が流れたまま


わたしが翔に向かって
とっさに何か言いかけようとしたそのとき


どこからともなく
場違いにも感じる春野先生のお気楽そうな声がして



――バァンっ!



保健室のドアが勢いよく開いた。