「――っ!直哉くん」


そう思いだしたら居ても立ってもいられず
わたしは自分の両手をにぎりしめ、とっさに口を開いていた。


いきなりわたしから名前を呼ばれたことに
直哉くんがエッ?と顔をあげる。


「…加奈子ちゃん?」

「サ、サッカーの試合
直哉くんのチーム、その…ま、負けちゃったけど
でも最後の最後で直哉くんが蹴ったボール、
本当はあれ、ちゃんと…入ったんだよ」

「!」

「だからその…
元気、出してほしい…」



わたしの言葉に
直哉くんは瞳を大きく見開いて、とても驚いている様子だった。




“――!! 直哉くん!!”



ホイッスルの笛が鳴る、ほんの数秒前

試合がタイムアップするギリギリでシュートを入れた直哉くんが、翔ともつれあうようにして地面へ倒れたあの時


直哉くんは半分、意識がないまま保健室に運ばれていったから

あのあと試合の結果がどうなったのかは
本人の目で見て知ることはないまま
今になってしまった。



“ピピーッ!”



…でも本当はあのとき

試合が終わる最後の最後で直哉くんが蹴り出したボールは

確かに相手チームのゴールラインを越えてネットを揺らし

青チームの得点につなげたんだ。


たった1点…


どのスポーツも
結果や、勝つことだけが全てなのだとしたら

直哉くんが入れたゴールは

ほんのささいな事、そんな風に片付けられてしまうかもしれない…。


でもそのたった1点が

わたしにとっては
今日幾度となく目にしたシュートの中でも一番、心動かされて…

それはすごく意味のある
とても忘れられない瞬間のように感じられた。


そして今も――