「くっだらねー、こんなもん。…何が“隣の席の人”だよ。
俺も加奈子苦手だし。つか、好きじゃねーし」

「……っ」

「だからどうでもいい」


まるで独り言のように大きく吐き捨てたあと、

翔は机の上に置いておいた荷物をひったくるように教室を飛び出して行った。


廊下中に響く翔の足音。



取り残されたわたしは、しばらくして床へ落ちたプリントを無言で拾いあげる。



苦手なもの:隣の席の人。

今わたしに向かって紙ヒコーキを飛ばしてきた人。

広瀬翔。



「……」


そこに見えるのは、確かにわたしがホームルームの時間に書いた、翔の名前。


しばらくその字をぼんやりと見つめていたら

無意識に目からこぼれた涙が紙を濡らし、翔の名前が、黒く滲んでぼやけた。



“俺も加奈子苦手だし。つか、好きじゃねーし”



「……ぐすっ」


泣くな。加奈子。泣いちゃダメ。


あの翔がわたしのこと、どうでもいいと思ってることくらい分かってたはずでしょ…――?


そういうわたしだって、翔のこと苦手だし、…好きじゃない。


だからわたしは本当のことを書いた。

それだけ。ただそれだけだよ…。


でもその翔にハッキリと同じことを言われて、全否定された瞬間


自分でも驚くくらい
ひどく傷ついているわたしがいたんだ。