地面へと止まったサッカーボールを上から足で押さえつけたまま

翔が一人ジッと目を向けていたのは
なぜかお互い接点がないはずの直哉くん。


だけど直哉くんは、そんな翔の視線には全く気づいてない様子で

トレーニング中、後ろをすれ違った友達と、ときおり笑顔で言葉を交わしながら
ただ目の前にあるサッカーを楽しんでいた。


「おい直哉~、おまえ今それ何周?」

「ん? あー…、10周ちょい」

「は!?じゅう?!
なに?おまえどんだけ飛ばしてんの?何張り切ってんの?
つか、何でそんな元気なんだよ!
ハァ、てかもうオレ、3周走りきった時点で既にバテてんだけど…」

「ははっ。何だよいきなり。
つーかそれ、部活引退してナマった証拠」


んだとォ?!



ふざけ合うように、突然後ろから猛ダッシュを仕掛けてきた友達に

直哉くんは「あ、やべっ」と言った顔をしながらも、急いでドリブルの足を速め、ボールを競い合う。


でもその時見た直哉くんの表情は、何か吹っ切れたように嬉しそうで
とにかくニコニコ笑ってて…


しばらくの間
翔はその光景を、黙って後ろから見ていたかと思うと

すぐにフイと顔をそらし、元いた場所へボールを蹴り返しながら戻っていった。