「ほらきたで」
「ああ、あれがそうなのか」
「せや」
アズマの言っていた親父だ。親父はアズマが言っていた通り門の鍵を閉めると近に置いてあった植木鉢の下に鍵を隠した。そして、アズマが乗っている車とは反対の方向へ歩いていった。六十近くともなると物忘れがひどくなるのかなぁとハルは感じた。親父が出て十五分ぐらいしてアズマが時間を見計らって言った。
「もうそろそろやな」
いまだ周りには人がいる気配がない。アズマは手袋をはめ、グラサンをし、黒のニット帽を被った。そして左手には黒の大き目のカバンを用意した。
「ほな行ってくるわ」
ハルは何も答えず黙っていた。