「流湖ちゃーん」
後ろからパタパタと可愛い足音と声が聞こえてくる。
振り返らなくてもわかる。
親友の愛姫(マキ)。
素直で、
純粋で、
可愛くて。
柔らかい髪に、
大きなクリクリの瞳。
子犬みたいで可愛い愛姫。
振り返ると泣きべそ。
原因は……
ひとつしかない。
「どうしたの?」
わかってはいるけど、一応は聞いてみる。
「碧君がねぇ〜」
ほら、やっぱり。
碧は、愛姫が好き。
そして愛姫は、碧が好きなんだと思う。
本人は、まだ気が付いてないから困るけどね。
ま。
碧もからかうと楽しいし。
愛姫も可愛いし。
もう少し、ほっておくつもり♪
よしよしと愛姫の頭を撫でながら廊下を歩く。
「あ、山口さん。
これ今日の資料です。
生徒会室に持って行ってもらえますか?」
「あ、はい。いいですよ」
呼び止められ資料を受け取ると、にっこり笑った橘(タチバナ)先生は、
『ありがとう』
と言って私の横を通り過ぎた。
たったそれだけ。
たったそれだけの事なのに胸の奥がギュッと痛くなる。
すごくすごく痛くて涙が出てしまいそうになるくらい。
呼ばれた声が耳に残る。
触れた指先が
ジンジンと熱い。
体の全てが反応してしまう。