そっと唇を離すと、澄子は俺に背を向けて歩き出した。


分ってる。


澄子はきっと家に帰ったら泣くんだろう。


いや、もう泣いているかもしれない。


「・・・クソ」


泣かせることしか出来ない自分を何度悔やんだだろう。



入学した時からやり直す事が出来れば、他のやつとこんなに差が出る事なんてしなかったのに。


俺の中途半端な学校生活を、こんな所で後悔するなんて。


中学の自分では考えられなかった。



無理矢理理解してくれた澄子の為にも、こんな所から早く立ち去って家に帰って勉強するべきだ。


なのに足が動かない。


澄子が一人になってから涙を流すように、


俺だって・・・



「・・・」


来年の春、お前に触れる事が出来るだろうか。



それまでに違う男が近づかないだろうか。



それまでに澄子の気持ちが変わらないだろうか。



不安で仕方ねーよ。




頬に冷たい感触が生じた。


自然と流れ落ちたそのモノに、そっと触れてみる。


指についた水滴は、いつも澄子の目から零れ落ちるモノと同じだった。



澄子、ごめんな。


いつも泣かせてごめんな。


涙を流すって事が、こんなに辛いって知らなかったんだ。


俺、頑張るから・・・


お前の前を歩けるように頑張るから。


もう、泣かないでくれよ。