「澄子には、色んな物をもらったんだ」


「へ?」


急に話が変わり、思わず変な声で返事をしてしまった。


「人を好きになるって感情も、誰かを守りたいって感情も」


猛?


「澄子がいたから、大学に行って可能性を広げたいって思えた」



・・・


それは喜んでいいの?


結局それが別れの原因になってるんじゃないの?



「俺に夢までくれた」


ゆっくり顔を上げると、猛の穏やかな瞳と目が合った。



たしかに、出会った時よりも断然優しい瞳になった。


鋭い、冷たい瞳じゃなくなったね。


だから?


それだから私は用済みって事なの?


「俺は、浪人する覚悟なんだ」


・・・浪人?


「俺の希望する大学に入れるまで、頑張る」



「だから、それまでは澄子に構ってやる余裕が無くなる」


「構ってくれなくてもいいっ!何年でも待てるっ!」


再びこみ上げて来る涙。


「傍にいなければこうやって、涙を拭いてやる事も出来ない」


チュ、っとリップノイズを立てながら私も瞼にキスをした。


「俺には待ってろなんて、言う資格は無いんだ。だから勝手だけど・・・」


すっと目を閉じて、猛が立ち上がった。


「こんな勝手な男は忘れ・・・」


最後まで言わずに、猛は俯いた。


「往生際が悪ぃな。俺も」


苦笑いをする猛の目が赤かったのを、私は見逃さなかった。


猛がこんなになってでも決心した事なんだね。


少し痩せたよね。


それ位一生懸命考えて、苦しんで・・・


私の為に決心してくれたんだよね。



「分ったよ、猛」


その決心を揺るがせるなんて、本当、彼女失格だね。



そんな猛の気持ちを台無しにしないように・・・



私も強くならなきゃね。



「別れよう」


ちゃんと、笑顔で・・・応援してあげるんだ。