「ん~」


温かい空。


落ち着ける体温。


それに包まれて寝ていたはずなのに、目が覚めると傍に猛の姿は無かった。



代わりにあるのは、足に掛けられた猛のブレザー。


「・・・猛?」


猛?


どこ行ったの?


猛のブレザーを持ったまま屋上を出て、階段を降りる。


トントン、と階段をリズムカルに降りると、女の子の話し声が聞こえてきた。


・・・どこかで、聞いた事のある声。


「本当、うざいよね」


ドクン・・・ドクン・・・


「2年のくせに生意気だし」


「・・・っ」


階段を降りきったところにいたのは、猛を取り巻いていた先輩達がいた。



厚い化粧に、きつい香水、それと交じるメンソールの匂い。


「あー」


私に気づくと、3人の先輩は目を合わせてニヤリと微笑んだ。


・・・



穏やかな時間。


さっきまで、猛の体温に包まれて、あんなに幸せだったのに。


「・・・猛」


小さな声で、愛しい彼の名前を呼んだ。