誰の目から見ても仲が良いと思う。西本は安藤の顔をじっと見て良く笑う。誰にでもするのだろうか。少なくとも俺に対してはしない。
「安藤しか信頼してないってこと?」
「他の友達だって好きだよ。でも一志は別。一志が俺のことどうでも良くなったら死にたくなるわ」
微かに笑って、自分の言ったことがおかしそうだ。
一番身近なはずの家族に愛情を持ち合わせていない西本はそれを埋めるため、特別視する存在が必要なのかもしれない。
愛情というものはどちらかが一方的に注いでも均衡が崩れ、成り立つどころか深い傷を負ってしまう。
元々精神が不安定だった西本は、唯一のよりどころの安藤を失ってしまいそうな不安がとどめを刺し、あのような行為に及んだのではと考えた。
「そこ右ね。ほら、あのマンションだよ」
西本が指さした先にはまだ建って日が浅いような、小綺麗なマンションがあった。
学生の一人暮らしには贅沢だ。西本の親は放任する変わり、金は惜しまないらしい。
「せんせ、送ってくれてありがとう。さよなら」
車から降りて軽く手を振ると、あっさりと去って行く。
西本は入学式の日も、あんなことを言った割に拍子抜けするくらい去り際があっさりしていた。
俺は西本に恨まれてはいるが、存在としては時間をさくまでもない小さなものなのだろう。
エントランスへと消えて行く背中を見送りながら虚しさを感じた。