「…俺だけ記憶にないのは気にくわない」

「……へ?」



零会長は私から離れると、少し満足したように言った。



き、気にくわないって、私が覚えてないことが?



でも零会長、私とのキスなんて記憶に残す価値ないんじゃ?



そうは思ったものの、あえて口には出さないでいた。



「…なんで泣く」



不機嫌でも、面倒くさそうでもない。



零会長が私に聞く。



「あ」



自分で頬を触って、初めて気がついた。



目尻からこぼれ落ちた、涙の雫。



「な…なんでだろ?別に悲しい訳じゃないのに…っ」



そう言いながら、慌てて涙を拭き取った。



ただ、なんだか痛い。



キュキュって…心臓が痛い。