別れの春。
柔らかな日差しにまだ少し肌寒い風の中、
「冬李」
「風音」
「お別れです」
冬李は顔を歪めてに笑った
わたしも泣くように笑う
もう会えないのは分かっていた
最後に。
今まで数え切れないほどこの胸の奥に噛み砕いて押し込んだ感情が、今一気に押し寄せてきて、立っていることもできなくなる。
冬李がわたしを抱きすくめる
力強い、
胸が潰れてしまう。
感情に飲み込まれる。
あぁ、冬李
どうか。
どうか、今だけは永遠に。
わたしひとりでは大きすぎて、けれど暖かかった家を後にする
一歩一歩遠ざかる
冬李の姿を、この目に映したくなって何度も振り返りそうになる。
そしてその度に唇を噛みしめる
消えてゆく。
わたしの家も冬李の姿も、遠くに。
流されて、いつの間にか自分で手放した
もう戻らない、もう二度と。
せめて冬李の笑顔も、仕草も、匂いもすべてわたしの中で永遠に覚えていよう。
消えないように、ずっと
こころに色濃く、深く刻みつけて
柔らかな春の日差し
まだ冷たい風に
どこかの家の七竈の実が揺れていた
冬李、永遠に、さようなら。
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