軋むような音をたてて車体が止まった。三が立ち上がる。
それに倣うようにして俺も電車をおりるけど、やっぱり知らない場所だった。

ここ、どこ?


「こっちだよ夏」

「待っ、て」


三は良く来るんだろうか。迷う様子なく足を踏み出していた。
慌てて追い掛ける。

三について行く事に必死で、気が付いたらもう潮の香りが漂う岩場だった。
寄せては返す波の音がどこか気持ち良い。
でも、まだ4月になったばかりで少し寒い。


「う、み…」

「本当は学校の時にしたかったけど」

「…なら、7月が、いい」

「そうだね、夏の季節に」


乾いている岩場に腰をおろす。やっぱり潮の香りがする。
ヒトデがくっついてた。モロに田舎の小さな浜辺、なんだけど、気持ちいい。
隣に座った三に凭れてやった。

何をするでも、話すでもなくただ波の音だけが俺と三の間に流れる。
二人だけの空間、日常から切り離された空間、静か、とは言えないけれど確かに静かなこの場所は心地好くて目を閉じた。




まるで逃避行みたいだね、と、頭の軽い先輩から笑われるのは数時間後。


-end-