引っ張るのをやめて手にしていた櫛でといていく。
特に引っ掛かる事もなくすり抜けていくそれを目で追いながら口をついて出るのは溜め息だった。

艶やか、というのが丁度合うのだろう長いその髪の毛を手にしながらやはり心疼くのは引っ張りたいという欲求で、逆らう、や、我慢するなどそんな殊勝な考えが彼女にあるわけもなく今度は力いっぱい、引っ張った。


「~…ッ!?」

「あ、ごめん」

「…嬢、奴に何か恨みでも?」


頭皮に加えられた痛みに思わず涙目になる白市。

珍しいその顔に笑いを堪えながら首を横に振り、櫛を片付ける。
なんと切れ毛も抜け毛もなく櫛には一本の髪の毛もついていなかった。


「髪切っちゃうの勿体ないなぁ」

「結構邪魔なモンで」

「それでももったいないよーぅ」

「夏場は暑ィじゃねェですか」

「そうなんだけどねー」


なんて言いつつ長い髪の毛をみつあみにしながら、にんまりとちるが微笑んだ事を白市は知らない。


-end-