―…息を飲む。


 上領先輩、だ…。


 有は、まだ緑の疎らな草の上に座り込む姫乃に一瞥をくれると、不機嫌な顔のまま少し屈み込んだ。


「…大丈夫?」

 そう云って、無表情ながらも手を差し延べてくれる。

 姫乃は一体何が起こっているのか判らず、軽くパニックになっていた。

 そんな姫乃の腕を取ると、有は彼女を立たせ、スカートに付いた草をぱんぱんと軽く叩き落としてやる。


「怪我はなさそうだな」


 はっ、と我に返る。


「はっはい…っ」

「そ。じゃ」


 姫乃に背を向け、有は歩き出した。



 せんぱいが、行っちゃう…。先輩が行っちゃう!!


「あのっ」


 がんばれ、私。何の為に此処まで必死に追い掛けて来たの? …そう、第二ボタンを貰う為…!


「上領先輩っ! あのっ…わたし…私、山本 姫乃といいますっ」

 声を掛けられた有は立ち止まり、ゆっくり振り返る。


「…知ってるけど…何」


 えっ…。

 先輩、私の名前、知っててくれたんだ…!


 それだけでもう嬉しくなり、涙がぶわっと溢れそうになる。


 ――でもでも。ダメ。もっと、勇気を―…出さなくちゃ…!!



「あのっ…先輩のボタン、私にいただけませんか…っ」



 ―――云えた!!





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