講堂は既に施錠されていた。

 姫乃は息を切らしながら、講堂の裏手へ向かう。

 角を曲がろうとしたその時、建物の裏から突然影が勢いよく飛び出して来た。

 ――どんっ


 思いっきり突き飛ばされ、姫乃は尻餅をつく。

 それはシルバーの校章を付けた2年生の女子だった。

 彼女は、座り込んだままの姫乃には目もくれず、校舎の方へとあっという間に走り去って行ってしまった。


「―…今のひと、泣いてた…?」


 尻餅をついた態勢で、2年生の消えた方向を唖然として見遣る。

 少しの間、ぼうっとして動けないでいた姫乃だが、草を踏み締める音が近付いてくるのが聞こえた。


 反射的に振り返ると。


 そこには、愛しくてたまらないあの人が、とても不機嫌そうな顔をして立っていた。




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