呆然と、立ち尽くす。



 …先輩って、声もかっこいいんだぁ…。低くて、優しくて、落ち着いた声。

 知らなかったなぁ…。

 先輩、甘いもの苦手って聞いたけれど、飴は好きなのかな?

 と、視線を自分の掌に落とす。

 そこには「柚子のど飴」と書かれた、可愛い包みの飴。


―『風邪ひかないよーに』

 
 通り過ぎるときにした微かな、柑橘の香り。…この飴?

 …もしかして、先輩、風邪ひいているのかな…?

 急に心配になる姫乃。


 日曜日の静まり返った3年生の教室前で、姫乃はいつまでもうだうだと思考を巡らせつつ立ち尽くしていた。


 幸せの余韻にも浸りながら。




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