暫し、続く沈黙。


 紙袋を差し出して俯く姫乃には、永遠とも思える程の長い時間だった。

 実際はものの5秒ほどだったろうけれど。


「…チョコ?」


 有が沈黙を破った。


「…え? あ、はい」


 彼はゆっくりとした歩調で姫乃に近寄り、震える手から紙袋を受け取った。


「ありがとう。…じゃ」


 と、ほんの少しだけ口角を上げて微笑むと、くるっと踵を返し、階段を降りようとした。

 姫乃がその背中をうっとりと見詰めていると、突然有が黒いジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、振り返った。




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