「だから、勘違いしないでね」


 再び松本さんは、そのグロスで艶めいた口唇に笑みを湛える。


「ユウはあなたのものではないのよ?」


 不敵な笑みで歪んだ口唇と眼に、私のなかでふつふつと反抗心が湧き起こるのを感じる。

 それに対する気分の悪さと、そんな醜い感情が自分のなかに在ったという驚嘆を振り払うために、私はやっとのことで声を絞り出した。


「…先輩が、私のものだなんて…思ったことはありません」


 それは自分の声とは思われないほどに、ざらついた不確かなものだった。


「あらそう? それならいいんだけれど」


 彼女はまたもや私を見下ろしてせせら嗤う。


「あなたが、自分はユウの彼女だ、なんて思い込んでいたりしたら可哀想でしょう? だから、私と彼の関係をはっきりさせておきたかったの」


「……関係って。どんな関係なんですか?」


 勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。


「松本さんと先輩の間には、一体何があるんですか?」


 瞬間、彼女はさっと眉間を寄せたけれど、すぐにまた嫣然たる笑みをその顔に貼り付けた。


「ユウにとって、私は初めての女。そして、私たちはお互いに切り離せない存在なのよ」





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