「山本さん。少しお時間いいかしら?」


 松本さんは強い力の込もった眼差しを真っ直ぐに私へと注ぎ、にっこり微笑んで言った。

 でも、その目は少しも笑みは含んでおらず、私は背筋がぞくりとした。


 …やっぱり迫力あるんだ、松本さんって。


「部活時間のお邪魔はしないから」


 有無を云わせぬその物言いに、少し反感をおぼえつつも、刃向かうつもりもなかったので、私はゆっくりと頷いて立ち上がった。


「……はい」


 戸口に向かう途中、瑠璃の心配そうな視線を感じ、「大丈夫」と笑顔で返す。


 松本さんが私に用があるなんて、上領先輩のこと以外にある筈がない。


 それが一体何なのかは皆目見当がつかないけれど、怖くはなかった。


 松本さん。上領先輩の元カノ。

 先輩が好きだったひと。


 そんな彼女と、私も一度話してみたかったから。




.