先輩のロシアンブルーのような不思議な瞳を思い出す。

 あれに見据えられると、私は身動き出来なくなってしまう。

 先輩の長く細い指。

 触れられると全身の力が抜けていき、何も考えられなくなる。


 ときどき見られる先輩の笑顔が好き。

 八重歯がのぞいて、いつもは凛として冷たくさえ見える表情が、一瞬にして子供のようにあどけなく変わる。

 その瞬間、私の胸も温かくなる。


 いつも先輩に笑っていて欲しい。

 

 あの夜以来、先輩に黒い陰が過ぎることはない。

 それでも、一緒にいても遠くを睨んでいることもたまにある。

 先輩は自分のことはあまり喋らないから推測でしかないけれど。

 松本さんと関係しているような気がするの。

 彼女の話題になると遠くを睨み据えるような表情になるから…。


 先輩と松本さんの間にどんなことがあったのか私には判らない。

 なにを話して、笑い合って、お互いの何処を好きになったのかとか。

 どうして別れることになったのかとか。


 知りたい、とも思う。

 だけれども。

 怖い、ことのが大きい。


 先輩のカノジョだったひと。



 胸がもやもやする。




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