「とにかくさ」


 瑠璃はひそひそ声に戻り、続けた。


「先輩ってモテるけど誰でもとヘラヘラいい顔するタイプじゃないし、唯一付き合ってたって噂の松本さんにだって冷たくあたってるし」


 冷たい、といえば冷たいけど、気を遣う必要ないからああいう態度なのかもしれないし。


「姫乃さ、あの先輩に毎朝毎晩送り迎えして貰っておきながら、それはないんじゃない?」

「え?」

「彼に憧れてる子たちにシバかれるよ」

「う。うーん…」


 その子たちの気持ち、ちょっと判る。かも。

 松本さんに私も嫉妬していたから。


「ともあれ。あれだけ女の子に無関心だった先輩がよ? 姫乃にしてることっていえば、完全に特別扱いじゃない。好きでもなければ絶対しないよ。相手があの上領先輩なんだから尚更。間違いないね。賭けてもいい」

「……なに賭けるぅ?」

「ラ・ポムベールのミルフィーユをホールで」

「ほんとに!?」

「うん。賭けちゃる」


 瑠璃はようやく課題を写し終わり、ノートをぱたんと閉じてキスチョコを3粒乗せて返して寄越す。


「御礼でござい」

「あ、ご丁寧にどもども」

「もっと自分に自信持ちなよね」

「ん?」

「姫乃は体育はできないけど、よく気がついて可愛いし、女子にも好かれてるくらい性格いいし。上領先輩だってきっとあんたのこと好きよ」

「そっそんな…」 

「そうやってすぐ真っ赤になるしねー」


 予鈴が鳴り始め、瑠璃は席を立つ。


「素直で単純で。ほんとカワイイわあ」


 ……瑠璃のバカ。






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