有は再びベンチへ腰を下ろすと、姫乃に隣を勧めた。

 促されるまま、姫乃は有と肩を並べて座る。

 それだけでも、どきどきした。


「話って、なに?」


 有が沈黙を破った。


「あ…あの…せっ、生理がきたんです!」


 姫乃は頬を赤らめて一気に云った。


「…ああ……で?」

「だから、もう、安心してください!」


 じっと姫乃の顔を見詰める、有。


「もう、責任とか、考えないでください。私、これ以上先輩に無理して傍に居て貰いたくない」

「……」

「松本さんにも悪いし、私 邪魔者になりなくないんです」

「…姫乃」

「それにっ 先輩が傍に居たら、私 いつまでたっても彼氏できないしっ…私も早く彼氏つくって高校生活を楽しみたいし…」


 ―…違う、こんなこと云いたいんじゃ、ない。

 休みの間に何度も何度もシュミレーションした台詞たちは、全て吹っ飛んでいって、頭のなかは空っぽになってしまった。



「とにかくっ。赤ちゃん出来た訳じゃないんですから、もうあのことは忘れてください。責任なんか、感じて貰いたくないんです。」

「姫乃」

「責任感で、傍に居て欲しくなんかないの!」


 奥底から込み上げる熱い涙をぐっと堪えて、姫乃は叫んだ。


「…もう、私も。忘れますから」


 そう言い放ち、姫乃は立ち上がって駆け出した。


 瞬間、その彼女の肩を有はぐっと掴み、どんっと壁に押し付け―…。




 強引に口唇を塞いだ。





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