その時、ホームルームの終わりを告げるチャイムが放送された。
職員室にいるからかさっきよりもうるさく感じる、鳴り終わった後も頭の中でうっすらと聞こえるくらいだ。

「木崎、教室に戻ってもいいぞ」

どうせなら1時間目まで説教を
延長してくれても良かったのにと、渋々木崎は職員室を後にした。

「矢倉先生、もっと注意しなくていいんですか?」

木崎が完全にドアを閉めた後に矢倉の隣に座っているメタボリック体系の中年教師が話しかける。

「あいつは今何事にも適当ですからね、何言っても駄目なんですよ。」

1時間目の準備をしながら矢倉は応える。
その言葉に教師はムッとして、皮肉混じりに即座にあざ笑う。
「ほう、甘い事をおっしゃる」
「人間は誰しも真剣になれます、まあコネだけで生きた人間には分からないですがね。」

矢倉の言葉に中年教師は無言になり頬を図星と言わんばかりにひくつかせた。

「それでは1時間目があるので。」

矢倉は悪態を突いたものの毅然とした態度で席を立った。

周りの教師も今の会話を聞いていたのか矢倉が立ち上がった瞬間に一斉に視線を下に落とした。

「覚えてろよ、矢倉…」

小声でドアに進む矢倉に向かいつぶやく。
憎悪で歪んだ声だった。

それが矢倉に聞こえたかどうかは分からないが、彼は歩調を乱す事なく職員室から立ち去った