そうすれば大学まで援助してもらえる。
生活費までもらって勉強できるんだから。
勉強しているだけは匠海くんのことを忘れられた。
そんな私には家族の大事さとかがよく分からない。
(教会では主が父だとかなんとか言われ続けてたけど、
んな馬鹿なみたいな感じな子は結構いた)
唯一残っている家族の写真を見ても分からない。
そんなにお姉さんが大事ならお姉さんと付き合えば良いのに。
七夕祭も約束してたのにキャンセルされて、次の日友達と歩いてたら、浴衣を着たお姉さんと歩いてた。
唖然とそれを二人で見た記憶はまだ新しい。
現代、倫理感なんて有ってないようなもの。
平安時代は姉弟間での婚姻は認められていたんだし。
言わなきゃ良いだけのこと。
事実とは小説よりも奇なりというように、近親間での恋愛は盛り上がる。
私はそれの隠れみのなのかもしれない。
私の頭は相当いかれている。
頭を冷やそうと冷水を被った。
案の定、次の日風邪をひいた。
熱が高くて、寒気もして鼻がグズグズする。
学校には休むと連絡もした。
学校の友達から心配するメールが来た。
弱っている時のメールって涙腺が緩くなる。
匠海くんからもメールが来た。
風邪をひいたと返信すると
「一緒にいてやれないけど、あったかくしてろよ」
家族じゃないと一緒にいてくれないんだ。
緩んだ涙腺が一気に冷めた。
血の繋がりってそんなに大切なんだろうか?
私って何?
誰とも繋がっていない、私に価値なんてあるんだろうか?
痛み出した頭では何を考えても暗い方に落ちていく。
考えるのを止めて、私は目を閉じた。
目を覚ますと人の気配を感じた。
「目が覚めたか?」
「秀一?」
同じクラスの黒崎秀一がいた。
秀一は小学校の頃、一緒だったけど中学の時に私立に行ってしまった。
高校になって再開した時、記憶の中の秀一と同じで目つきが悪くてすぐに分かった。
「何?勝手に入ってんの?」
「管理人さんに入れてもらった。風邪ひいてる時に一人じゃ心まで弱っちまう。母ちゃんがおかゆとりんごと湯たんぽ持ってけって。あと、姉ちゃんのは…治ってからみてくれ」
「おばさんたちにまで迷惑かけるなんて」
「良いんだよ。二人共、お前の世話を焼きたいんだよ。おかゆ食えな、りんごするか?」
黒崎のおばさんの作ってくれたお粥は卵が入ってて美味しかった。
お母さんの味ってこんな感じなのかな?
「おいし…」
「そうか。湯たんぽも作ってくるな」
秀一に色々してもらっているうちに随分、らくになった。
「ありがとう。明日は学校行ける」
「そうか。お前がいないと静かで物足りないからな」
秀一はそうだというと、私にラッピングされた箱をくれた。
「早いけど誕生日プレゼントだ」
私の誕生日は、再来週の8月1日。
「開けて良い?」
包みを開くと、私が最近はまっている小説のシリーズが入っていた。
「良いの?発売されてる巻全部入ってるよ」
「プレゼントだからそれくらいはしないとな」
「ありがとう」
「8月1日位は双真もお前を優先するだろうさ。だから今、渡してておくな」
「どうかな?お姉さんのことで頭いっぱいだから」
「オレにも姉貴いるけど、あれは度を越したシスコンだ」
あれがシスコンなんだね。
「良いのか?このままで」
「わかんない。向こうが付き合ってるつもりなら良いんじゃない?」
別にエッチもキスもしてない。
友達の延長みたいなものだからこのままでも問題はない。
今、私達の中のブームが昼ドラだ。
『愛のカタストロフィ』
大まかなストーリーは
一人で生きてきた女が
一人の男と出会い
恋をする。
男も女に心をよせて行く
だが男には愛する女がいた
実の妹だ。
女と妹と間に揺れ動く男。
男を信じる女が健気で涙がでそうになる。
今、女の方に好意をよせる男が出て来た。
そうなると、ライバル出現に男が焦るわけだ。
今日は
女・百合乃(ゆりの)と男・和雅(かずまさ)
が約束をしていた。
が急に妹からの連絡が入って和雅は悩む。
百合乃は妊娠しててそれを伝えようと覚悟を決めているんだけど、
和雅はそれを知らずに妹の元へ走ってしまう。
「すぐ戻ってくる。戻ってくる待っていてくれ」
「待たないよ」
「頼む」
和雅は喫茶店を飛び出した。
その姿を見送って百合乃は
「さよなら和雅さん」
そして百合乃はお金を払ってでていった。
戻ってきた和雅は百合乃のいないことに愕然とする。
「オレは百合乃のつけすら許されなかった…」
そのモノローグに対して、
「そりゃあそうだよ!この場面で妹ばっかりのシスコンと何を喋っても無駄だよ」
と私と萌季(もえぎ)はツッコミをいれた。
次からは、和雅視点の話しになるっぽい。
「和雅が掻き乱されるから楽しそう」
萌季がニヤニヤとケータイをしまった。
頷く私だけど、内心はきがきじゃない。
私の状況と被っている。
なんか怖いって思った。