なぁ刹那。
これを見ながらお前は何を考えた。
多分
優しいお前のことだから
自分が引いて
オレが姉ちゃんの世話に集中できるとか思ったんじゃないだろうか?
お前に与えられ続けてた
たくさんの贈り物
でもさようならだけは受け取りたくなかった。
帰って来た。
楽しかった。
農業高校では自分は役に立たないことが多いと思っていたけど
ためになることばかり勉強出来た。
一ヶ月、お世話になったお家のお母さんたちは本当の家族の様に接してくれた。
家族ってこんな感じなんだということが分かった。
友達も出来た。
収穫した野菜を送ってくれるそうだ。
こっちに帰ってきて、向こうで考えなかったことを思い出した。
匠海くんとのこと。
それを決着をつけないと。
ズルズルと引きずってるわけにはいかない。
二学期が始まっても交流会参加者は報告書やらで匠海くんと会う機会はなかった。
愛のカタストロフィは萌季が録画に失敗したとメールで謝ってきた。
大学に行って家を出てたお兄さんが帰って来ていて、タイマーを解除していたらしい。
一緒に見ようしていたから萌季も結末しらない。
ハッピーエンドなのは分かっている。
DVDも出るだろうし、ネットでも配信しているからいつか一緒に見ようと約束した。
誰もいない教室でメール送った。
待っている間、外を見ていた。
9月なのにまだ暑い。
早く帰ってシャワーを浴びたい。
早く来て
早く
待つのがこんなに長く感じるのは初めてだ。
「刹那ちゃん。ごめんね遅くなって」
「いいえ。大丈夫です」
「刹那、何で?」
私が待っていたのは、雫さん。
案の定、匠海くんもついて来た。
呼んでもいないのに。
分かってたけどね。
分かってたから、最初から雫さんにメールを送った。
「何で刹那が姉ちゃんのメルアド知ってんだ?」
それは
「だって交流会は雫さんが行く予定になってたから。でも、体調の関係でやっぱり無理ってことで私が」
交流会という名前だが本当は夏季の特別補習授業なのだ。
雫さんは授業日数が足りないため参加することになっていたが、体のこともあって参加できなくなった。
でも向こうの学校に予定を入れているから中止に出来るわけはなく私が代理として行くことになった。
「これレポートと報告書です」
雫さんに一部つづ渡した。
「ありがとう…」
「大丈夫です。ちゃんと名前を書いておきましたから」
特例でレポートと報告書の作成のアシストすれば参加したことと同じことにする。
「名前は入れておきました。これを提出すれば雫さんの交流会は参加したと同じです」
「刹那、何でそれを言わなかった。姉ちゃんも」
「それは」
匠海くんが割り込んできた。
「私が雫さんに頼んだの。匠海くんには言わないでって」
「何で?」
「だって雫さんのために私の所にくるでしょ。そんなの耐えられそうになかったから」
ただでさえ、雫さん優先の匠海くんは交流会の準備のために雫さんの代わりだと私の元に来たはず。
私のためじゃない、雫さんのために。
耐えられない。
だから雫さんに口止めしてもらった。
「もうそれもおしまい。匠海くんにも渡したいものがあるの」
これが本題。
「別れて」
夏休み中にずっと考えていた。
どうしたら良いか。
「何で…」
今日の匠海くんは何でばかりだね。
「私、ずっと寂しかった。誰か隣にいてくれたら、それなくなると思ってた。それが匠海くんだと思ってた。でも逆、匠海くんといると寂しくなる、一人の時よりもずっと」
「それは悪いと思ってる。仕方ねえだろ!お前だって分かるだろ?家族をなくすかもしれない恐怖」
だから私を選んだの?
家族をなくしている私だから?
それはお門違いだよ。
だって私は
「知らない。私は気づいたら教会で暮らしてた。親の温もりとか愛なんて知らない。期待を裏切って悪いけど、私は家族の大切さも失うかもしれない怖さもなんて知らない」
だから匠海くんはそれを知ってる人と付き合えば良い。
「いままでありがとう。これからはお姉さんのことだけ考えてあげて」
「刹那、オレは別れたくない。お前が好きだから」
「ありがとう。でも私たちはもう無理だよ。待ってるのもう嫌なの」
さよならと言って教室を出た。
ドラマの様にハッピーエンドになんてならなかった。
匠海くんと別れて、寂しさが消えた。
その代わりに前からいた孤独感が戻ってきた。
その孤独感に慣れるのに時間はかからなかった。
何事もなかったかの様に生活する私を見て、黒崎も萌季も何も言わなかった。
別れたことも当然のことだと顔を見れば分かった。
匠海くんとは学校でも会わなかった。
元々、クラスも部活も帰り道も違う私たちが交わる所なんてなかったんだから。