アフタヌーンメロドラマチック

そうかとしか答えを返せなかった。

刹那は合い鍵をオレの家ではなく黒崎の家を選んだということがショックだった。

「浮かない顔してるな。姉ちゃんの具合が良くないのか?それとも刹那からメールも電話も一切なくて凹んでるのか?」

「んなんじゃねぇよ…」

「刹那の交流会の写メ見るか?」

黒崎はオレにケータイの画面を見せてきた。

そこには、牛と向こうの友達と一緒に写った、満面の笑顔の刹那がいた。

「農業高校らしくてな。毎日、牛やら豚、ニワトリの世話してるんだと」
オレにはそんなメールは送られて来なかった。

「マジで何もないのか?」

黒崎のニヤニヤしていた表情は消えて、真剣な顔でオレに聞いて来た。

「こっち来い」

刹那のアパートの中に引きずり込まれた。

「何だよ」

「双真、刹那と別れたのか?」

「ねぇよ」

「それなら何で刹那は何の連絡もよこさないんだ?」

「知らねぇよ」

なけなしのプライドが崩れそうになるのを留まらせる。

「お前、昼ドラ見てるか?」

「話し関係ないだろ」

「刹那と滝浦がハマってる。オレの姉貴もな。お前と刹那の関係とドン被り。あれ見たらお前らの結末もみえるぞ」
ネットで見てみろ。

言われるままに動画サイトで愛のカタストロフィを見ると

涙が止まらなくなった。

黒崎と別れて、家で最終回までを見た。

男の気持ちも分かるが、ヒロインの気持ちがそれが刹那と同じ気持ちなのだとしたら、オレたちの結末は別れしかない。


何の連絡もない刹那の気持ちはそういうことじゃないのだろうか?
別れたくない。

オレの気持ちはそれだけだ。

今度こそ大事にするから。

チャンスをくれと刹那に願った。

届かないとしても。


今日は29日、

刹那は明日帰ってくる。
なぁ刹那。

これを見ながらお前は何を考えた。

多分

優しいお前のことだから

自分が引いて

オレが姉ちゃんの世話に集中できるとか思ったんじゃないだろうか?

お前に与えられ続けてた

たくさんの贈り物

でもさようならだけは受け取りたくなかった。
帰って来た。

楽しかった。

農業高校では自分は役に立たないことが多いと思っていたけど

ためになることばかり勉強出来た。

一ヶ月、お世話になったお家のお母さんたちは本当の家族の様に接してくれた。

家族ってこんな感じなんだということが分かった。

友達も出来た。

収穫した野菜を送ってくれるそうだ。


こっちに帰ってきて、向こうで考えなかったことを思い出した。

匠海くんとのこと。

それを決着をつけないと。

ズルズルと引きずってるわけにはいかない。
二学期が始まっても交流会参加者は報告書やらで匠海くんと会う機会はなかった。

愛のカタストロフィは萌季が録画に失敗したとメールで謝ってきた。

大学に行って家を出てたお兄さんが帰って来ていて、タイマーを解除していたらしい。

一緒に見ようしていたから萌季も結末しらない。

ハッピーエンドなのは分かっている。

DVDも出るだろうし、ネットでも配信しているからいつか一緒に見ようと約束した。
誰もいない教室でメール送った。
待っている間、外を見ていた。

9月なのにまだ暑い。

早く帰ってシャワーを浴びたい。

早く来て

早く

待つのがこんなに長く感じるのは初めてだ。


「刹那ちゃん。ごめんね遅くなって」

「いいえ。大丈夫です」

「刹那、何で?」

私が待っていたのは、雫さん。

案の定、匠海くんもついて来た。

呼んでもいないのに。

分かってたけどね。

分かってたから、最初から雫さんにメールを送った。

「何で刹那が姉ちゃんのメルアド知ってんだ?」
それは

「だって交流会は雫さんが行く予定になってたから。でも、体調の関係でやっぱり無理ってことで私が」

交流会という名前だが本当は夏季の特別補習授業なのだ。

雫さんは授業日数が足りないため参加することになっていたが、体のこともあって参加できなくなった。

でも向こうの学校に予定を入れているから中止に出来るわけはなく私が代理として行くことになった。

「これレポートと報告書です」

雫さんに一部つづ渡した。

「ありがとう…」

「大丈夫です。ちゃんと名前を書いておきましたから」
特例でレポートと報告書の作成のアシストすれば参加したことと同じことにする。

「名前は入れておきました。これを提出すれば雫さんの交流会は参加したと同じです」

「刹那、何でそれを言わなかった。姉ちゃんも」

「それは」

匠海くんが割り込んできた。

「私が雫さんに頼んだの。匠海くんには言わないでって」

「何で?」

「だって雫さんのために私の所にくるでしょ。そんなの耐えられそうになかったから」

ただでさえ、雫さん優先の匠海くんは交流会の準備のために雫さんの代わりだと私の元に来たはず。


私のためじゃない、雫さんのために。

耐えられない。

だから雫さんに口止めしてもらった。