帰り道も会話もなく
鞄の中の刹那へのプレゼントを渡せないでいた。
「ここで良いよ。ありがとう」
「おう…。交流会頑張れよ」
「うん。良い夏休みを」
「9月になったら神社の祭行こう」
「無理しないで。お姉さんと行きなよ」
そして
「誕生日おめでとう」
そう言ってオレにキレイにラッピングされた包みをよこしてきた。
オレの誕生日は今日じゃない。
9月13日だ。
それは刹那も知っているはずなのに。
今、これを寄越すってことは
それを意味することは
怖くて
どうしても聞けなかった。
オレが分かったのは
取り戻せると思っていたものは
刹那の中ではとっくにその時期は過ぎていたということだけだった。
匠海くんと別れてから録画をしていた愛カタを見た。
昨日の続き。
和雅の妹の雅美にこと花は連れて行かれてしまう。
こと花を必死で探す百合乃。
手伝うと和雅は声をかけるが、百合乃はそれを断る。
和雅は妹からの電話を受けて家に戻ると小さな見覚えのある靴があった。
「雅美!こと花が来てるのか?」
中に入ると
雅美と遊ぶこと花がいた。
「雅美、こと花を勝手に連れて来たのか?」
「この子は私の姪っ子でしょ。断る必要はないよ」
「百合乃は、母親が必死になって探している。」
「小さい子を一人にしておくのが悪いの。あの人は母親の資格はない。お兄ちゃんが引き取って。私、この子のママになる」
夢を見る少女のような雅美に和雅は首を振る。
「雅美。お前はこの子の母親にはなれない。こと花帰ろうお母さんが心配してる」
「うん。じゃあねお姉ちゃん」
こと花が立ち上がると雅美は突然、こと花を捕まえてナイフを喉元に向けた。
泣き出すこと花
「雅美止めろ!」
「この子を私の子どもにしてよ!」
「ダメだ!その子は百合乃の子なんだ」
「私のいうこと何でも聞いてくれたじゃない。あの人よりも大事にしてくれたじゃない」
「そうだ。お前は大事な妹だから。百合乃にはいつも辛い思いをさせた。けど、こと花だけは奪うことは出来ない」
こと花を抱きしめ、微笑む百合乃が脳裏に映る。
「父親として、子供を母親から引き離すことはできない」
その時、
「警察だ」
警察がドアを破壊して飛び込んで来た。
雅美は取り押さえられて、こと花は保護された。
連行される雅美を和雅は助けようとするが警察に阻止される。
「こと花!」
「お母さん」
百合乃がこと花を抱きしめた。
「警察に通報したのか…」
呆然とする和雅は百合乃に尋ねた。
「誘拐事件。未成年略奪だもの。保育園からこの子を連れ出した女の人の特徴が雅美ちゃんだって分かった。警察に通報した」
「説得出来た」
「無理よ。あなた妹大好きだもの。言いくるめられて、私からこと花を奪おうとするわ」
「そんなことしない。こと花をお前に帰そうとした」
「今までのあなたの行動で信じられる所がある?」
「それは…。けれどこと花が関われば別だ」
「そう。お礼はいうわ」
「…雅美の弁護をしてくれないか?」
そこで終わった。
誘拐犯の弁護を被害者の母親に頼む男の心理がわからないが、
ドラマとしては盛り上がるだろう。
明日からはリアルタイムで見れないのは残念だ。
夏休みの間、刹那からメールは一通だけしか送られて来なかった。
「匠海、元気ないね。何かあった?」
「何でもないよ」
「明日、お祭りね。お祭りにいけば元気になるわ」
姉ちゃんはオレを元気づけようとしてくれるけど、
刹那のことを思えばそんな気は起きなかった。
姉ちゃんとの約束を刹那にしたものだと勘違いしたことは
オレに予想以上のダメージを与えていた。
「私じゃない。お姉さんとしたんでしょ」
刹那の呆れた様な視線を思い出すと胃が痛くなって吐きそうになった。
「やめておくよ…」
「そう」
気分を少しでも通うと外に出ると足は自然に刹那のアパートに向かっていた。
刹那がいるときは、そんなことなかったのに
刹那の部屋を外から見ていると、ドアが開いて中から黒崎が出てきた。
「あっ!リアル愛カタ!じゃなくて双真。何してんだ?刹那ならいねえぞ」
「知ってる。お前、何してんだ」
「ん?たまに掃除しねえと埃が溜まんだろ」
「何でお前が鍵持ってんだ」
「オレじゃねえよ。オレの母ちゃんが預かってんだ。母ちゃんが仕事だからオレが代理」
そうかとしか答えを返せなかった。
刹那は合い鍵をオレの家ではなく黒崎の家を選んだということがショックだった。
「浮かない顔してるな。姉ちゃんの具合が良くないのか?それとも刹那からメールも電話も一切なくて凹んでるのか?」
「んなんじゃねぇよ…」
「刹那の交流会の写メ見るか?」
黒崎はオレにケータイの画面を見せてきた。
そこには、牛と向こうの友達と一緒に写った、満面の笑顔の刹那がいた。
「農業高校らしくてな。毎日、牛やら豚、ニワトリの世話してるんだと」
オレにはそんなメールは送られて来なかった。
「マジで何もないのか?」
黒崎のニヤニヤしていた表情は消えて、真剣な顔でオレに聞いて来た。
「こっち来い」
刹那のアパートの中に引きずり込まれた。
「何だよ」
「双真、刹那と別れたのか?」
「ねぇよ」
「それなら何で刹那は何の連絡もよこさないんだ?」
「知らねぇよ」
なけなしのプライドが崩れそうになるのを留まらせる。
「お前、昼ドラ見てるか?」
「話し関係ないだろ」
「刹那と滝浦がハマってる。オレの姉貴もな。お前と刹那の関係とドン被り。あれ見たらお前らの結末もみえるぞ」