「オレのこと信じてなかったのか?」
「そうじゃないよ。でも、大概キャンセルになるじゃない。だから時間が無駄にならために萌季との予定を立ててただけ」
それだけと刹那は言った。
それはオレを信用してないと同じ事だ。
けれど『大概キャンセルになる』と言う言葉で言い返すことが出来なかった。
それに刹那の誕生日だ。
怒りを堪えた。
「行こう。昼食おう」
刹那の手を引いて歩き出した。
オレ達の間に会話がなかった。
「ねぇ、マック行こうよ」
「あ?ファミレスじゃなかったのか?」
「匠海くんとはマックが良い」
刹那に引っ張られてマックに入った。
「滝浦とはファミレスに行くって言ってただろうが」
「ん〜一人でファミレスにおいて行かれると虚しいよ」
刹那はそれだけ言うと、カウンターで注文をした。
「匠海くんは何にする?」
「あぁ…」
そうだ。
最初に二人で出かけた時に、
ファミレスに入った。
そして家から電話がかかってきて、金だけを置いて帰った。
「ファーストフードなら持ち帰れるでしょ」
「そうだな」
「映画も短い奴にしようね」
刹那は明るく話すが言葉の内容はどれもオレを傷つける。
刹那はオレが必ず連絡が来たら帰ると思っている。
実際、オレはいつも刹那を一人残して帰った。
オレに刹那を責める資格はない。
「今日は大丈夫だ。一緒にいるから」
初めて恋人として過ごそう。
「帰って」
「え?…」
何でだと声が出なかった。
「明日から交流会で北海道に行くの」
北海道
交流会
そんな話し、聞いてない。
「んだよ!それ…聞いてねぇぞ」
「だって匠海くんには話してないもん」
「オレがお前の側にいないからか?だからオレが何も言わなかったら何も言わないで行くつもりだったのか!」
怒鳴っても刹那の表情は変わらない。
「静かにして。言う暇なんてなかったじゃない。会ってもすぐに帰るんだから」
「悪い」
刹那が悪いんじゃない。
「いつ帰って来るんだ?」
すぐに帰って来るんだろうと思っていた。
「帰って来たら遊びに行こう。海とか祭もあんだろ」
「無理。交流会は30日まで」
夏休みいっぱいここにいないと刹那は言った。
「約束しただろ!海にも祭にも行くって」
そんでいっぱい思い出作るって約束した。
刹那の表情が変わった。
褪めた目でオレを見ていた。
「私じゃない。お姉さんとしたんでしょ。海でもお祭りでも行って下さい」
その後、オレたちは会話をしなかった。
映画も内容が頭に入って来ない。
オレは刹那と何も話してないことを思い出した。
帰り道も会話もなく
鞄の中の刹那へのプレゼントを渡せないでいた。
「ここで良いよ。ありがとう」
「おう…。交流会頑張れよ」
「うん。良い夏休みを」
「9月になったら神社の祭行こう」
「無理しないで。お姉さんと行きなよ」
そして
「誕生日おめでとう」
そう言ってオレにキレイにラッピングされた包みをよこしてきた。
オレの誕生日は今日じゃない。
9月13日だ。
それは刹那も知っているはずなのに。
今、これを寄越すってことは
それを意味することは
怖くて
どうしても聞けなかった。
オレが分かったのは
取り戻せると思っていたものは
刹那の中ではとっくにその時期は過ぎていたということだけだった。
匠海くんと別れてから録画をしていた愛カタを見た。
昨日の続き。
和雅の妹の雅美にこと花は連れて行かれてしまう。
こと花を必死で探す百合乃。
手伝うと和雅は声をかけるが、百合乃はそれを断る。
和雅は妹からの電話を受けて家に戻ると小さな見覚えのある靴があった。
「雅美!こと花が来てるのか?」
中に入ると
雅美と遊ぶこと花がいた。
「雅美、こと花を勝手に連れて来たのか?」
「この子は私の姪っ子でしょ。断る必要はないよ」
「百合乃は、母親が必死になって探している。」
「小さい子を一人にしておくのが悪いの。あの人は母親の資格はない。お兄ちゃんが引き取って。私、この子のママになる」
夢を見る少女のような雅美に和雅は首を振る。
「雅美。お前はこの子の母親にはなれない。こと花帰ろうお母さんが心配してる」
「うん。じゃあねお姉ちゃん」
こと花が立ち上がると雅美は突然、こと花を捕まえてナイフを喉元に向けた。
泣き出すこと花
「雅美止めろ!」
「この子を私の子どもにしてよ!」
「ダメだ!その子は百合乃の子なんだ」
「私のいうこと何でも聞いてくれたじゃない。あの人よりも大事にしてくれたじゃない」
「そうだ。お前は大事な妹だから。百合乃にはいつも辛い思いをさせた。けど、こと花だけは奪うことは出来ない」
こと花を抱きしめ、微笑む百合乃が脳裏に映る。
「父親として、子供を母親から引き離すことはできない」
その時、
「警察だ」
警察がドアを破壊して飛び込んで来た。
雅美は取り押さえられて、こと花は保護された。
連行される雅美を和雅は助けようとするが警察に阻止される。
「こと花!」
「お母さん」
百合乃がこと花を抱きしめた。
「警察に通報したのか…」
呆然とする和雅は百合乃に尋ねた。
「誘拐事件。未成年略奪だもの。保育園からこの子を連れ出した女の人の特徴が雅美ちゃんだって分かった。警察に通報した」
「説得出来た」
「無理よ。あなた妹大好きだもの。言いくるめられて、私からこと花を奪おうとするわ」
「そんなことしない。こと花をお前に帰そうとした」