姉の具合は朝には良くなった。
熱が出ていたが下がって、顔色が良い。
「ごめんね。いつも…」
「気にすんな。具合が良くなって良かった」
姉は小さい頃から、身体が弱くてよく熱を出していた。
入退院も何度も繰り返して、命の危機に陥ったことがある。
家族全員が姉を愛している。
だから何かがあればみんな帰ってくる。
姉のことを見守る。
そのかいもあってか、姉の体調も落ち着いてきている。
高校も一年留年したが通える日も増えてきている。
「刹那ちゃんに悪いことばかりしてるわ…」
「刹那は分かってくれる。あいつも家族を亡くしているんだ。家族の大切さは分かってるはずだ」
「夏休みは刹那ちゃんのために、使ってあげなさいね」
「うん」
本当に刹那にはすまないと思っている。
付き合っているのに恋人らしいことを少しもしてやっていない。
それでも何も言わず、次の日には笑顔で迎えてくれる。
その健気さに助けられている。
昨日も、途中で帰って来てしまった。
今日は、朝一にあいつに会いに行こう。
そして一日を過ごして刹那を甘やかしてやりたい。
時間は朝の5時、まだ寝ているかもしれない。
メールだけを送った。
部屋で休んでいると電話がかかってきた。
ディスプレイには同じ部活の古川(こがわ)からだった。
昨日、部活の連絡をしようと電話をしたが出なかった。
「古川!何してたんだ!何回も電話したんだぞ」
「あー悪ぃ。彼女の友達が誕生日だったから一緒に誕生パーティーしてた。カラオケとかにも行ってたから全然気づかなかった」
「誕生日?」
確か古川の彼女は滝浦萌季だったか。
バレー部で、背は小さくて中学生みたいだけどパワー部内1だと刹那が言っていた。
刹那といつも一緒にいる。
髪を中学生見たいに二つに結っている滝浦萌季。
刹那の友達。
目の前が白くなった。
「ようやく気づいたか?萌季が怒り狂ってよぉ、大変だったぜ。3組の黒崎とかも来て盛り上がったんだ」
古川の声はもう聞こえなかった。
自転車に乗って刹那のアパートに向かった。
着くことにには足がガクガクになっていた。
汗が顔から落ちる
喉が渇いて、痛い
そんなことに構っている暇はなく、自転車をその場に捨てると刹那の部屋に向かった。
インターホンを押すと同時に、ドアが開いた。
「刹那…」
「匠海くん!おはよう。どうしたの?こんな朝早くに」
普段なら何も思わないはずの挨拶なのに、今日はその姿が痛々しく見えた。
「おまえ、昨日誕生日…ごめん…」
「いつものことじゃない、気にしないで」
刹那はにこりと微笑むけど、それがオレの胸をえぐる。
「これから昨日のやり直ししよう」
「これから出かける」
刹那は制服を着ていた。
登校日じゃないのに、
「学校行くのか?」
「そう」
「何時に終わる?」
「12時ぐらいかな?」
「それから飯食って映画でも行かないか?お前が見たいっていう映画やってただろ」
「良いよ」
12時なら誕生日プレゼントの準備が出来る。
「じゃあ約束な」
オレは取り戻せると思ってたんだ。
今までのことを全て。
刹那を迎えに学校に向かった。
誕生日プレゼントも買った。
帰りにケーキも買おう。
刹那は甘いものが好きだから。
刹那が出てきた。萌季も一緒だ。
「じゃあ愛カタ録画しておくね」
「お願いね。今月で終わるんでしょ」
「まかせてバッチリ録画して奥から、交流会が終わったらオールで見ようね」
「うん」
刹那の顔は明るく、夏の太陽のようだ。
「ファミレスでワンセグ見ようよ」
「良いよ。私、ハンバーグにする」
刹那たちの会話は明らかに、これからの予定を話している。
どういう事だ。
「刹那!」
「匠海くん?」
刹那は驚いた顔でオレを見た。
驚いたのはオレの方だ。
「どういうつもりだ。お前、オレと約束してじゃないか」
「別に、キャンセルの時の予定立ててただけだよ。萌季、匠海くん来たから」
「うん。じゃあ交流会頑張ってメールするから」
「ありがとう」
滝浦が帰って行った。
オレと刹那の二人きり。
「オレのこと信じてなかったのか?」
「そうじゃないよ。でも、大概キャンセルになるじゃない。だから時間が無駄にならために萌季との予定を立ててただけ」
それだけと刹那は言った。
それはオレを信用してないと同じ事だ。
けれど『大概キャンセルになる』と言う言葉で言い返すことが出来なかった。
それに刹那の誕生日だ。
怒りを堪えた。
「行こう。昼食おう」
刹那の手を引いて歩き出した。
オレ達の間に会話がなかった。
「ねぇ、マック行こうよ」
「あ?ファミレスじゃなかったのか?」
「匠海くんとはマックが良い」
刹那に引っ張られてマックに入った。
「滝浦とはファミレスに行くって言ってただろうが」
「ん〜一人でファミレスにおいて行かれると虚しいよ」
刹那はそれだけ言うと、カウンターで注文をした。
「匠海くんは何にする?」
「あぁ…」
そうだ。
最初に二人で出かけた時に、
ファミレスに入った。