アフタヌーンメロドラマチック

風邪をひいたと返信すると

「一緒にいてやれないけど、あったかくしてろよ」

家族じゃないと一緒にいてくれないんだ。

緩んだ涙腺が一気に冷めた。

血の繋がりってそんなに大切なんだろうか?

私って何?

誰とも繋がっていない、私に価値なんてあるんだろうか?

痛み出した頭では何を考えても暗い方に落ちていく。

考えるのを止めて、私は目を閉じた。



目を覚ますと人の気配を感じた。

「目が覚めたか?」

「秀一?」

同じクラスの黒崎秀一がいた。

秀一は小学校の頃、一緒だったけど中学の時に私立に行ってしまった。

高校になって再開した時、記憶の中の秀一と同じで目つきが悪くてすぐに分かった。

「何?勝手に入ってんの?」

「管理人さんに入れてもらった。風邪ひいてる時に一人じゃ心まで弱っちまう。母ちゃんがおかゆとりんごと湯たんぽ持ってけって。あと、姉ちゃんのは…治ってからみてくれ」
「おばさんたちにまで迷惑かけるなんて」

「良いんだよ。二人共、お前の世話を焼きたいんだよ。おかゆ食えな、りんごするか?」

黒崎のおばさんの作ってくれたお粥は卵が入ってて美味しかった。

お母さんの味ってこんな感じなのかな?

「おいし…」

「そうか。湯たんぽも作ってくるな」

秀一に色々してもらっているうちに随分、らくになった。

「ありがとう。明日は学校行ける」
「そうか。お前がいないと静かで物足りないからな」

秀一はそうだというと、私にラッピングされた箱をくれた。

「早いけど誕生日プレゼントだ」

私の誕生日は、再来週の8月1日。

「開けて良い?」

包みを開くと、私が最近はまっている小説のシリーズが入っていた。

「良いの?発売されてる巻全部入ってるよ」

「プレゼントだからそれくらいはしないとな」

「ありがとう」
「8月1日位は双真もお前を優先するだろうさ。だから今、渡してておくな」

「どうかな?お姉さんのことで頭いっぱいだから」

「オレにも姉貴いるけど、あれは度を越したシスコンだ」

あれがシスコンなんだね。

「良いのか?このままで」

「わかんない。向こうが付き合ってるつもりなら良いんじゃない?」

別にエッチもキスもしてない。

友達の延長みたいなものだからこのままでも問題はない。
今、私達の中のブームが昼ドラだ。

『愛のカタストロフィ』

大まかなストーリーは

一人で生きてきた女が

一人の男と出会い

恋をする。

男も女に心をよせて行く

だが男には愛する女がいた

実の妹だ。

女と妹と間に揺れ動く男。

男を信じる女が健気で涙がでそうになる。

今、女の方に好意をよせる男が出て来た。

そうなると、ライバル出現に男が焦るわけだ。
今日は

女・百合乃(ゆりの)と男・和雅(かずまさ)

が約束をしていた。

が急に妹からの連絡が入って和雅は悩む。

百合乃は妊娠しててそれを伝えようと覚悟を決めているんだけど、

和雅はそれを知らずに妹の元へ走ってしまう。

「すぐ戻ってくる。戻ってくる待っていてくれ」

「待たないよ」

「頼む」

和雅は喫茶店を飛び出した。

その姿を見送って百合乃は

「さよなら和雅さん」

そして百合乃はお金を払ってでていった。
戻ってきた和雅は百合乃のいないことに愕然とする。

「オレは百合乃のつけすら許されなかった…」

そのモノローグに対して、

「そりゃあそうだよ!この場面で妹ばっかりのシスコンと何を喋っても無駄だよ」

と私と萌季(もえぎ)はツッコミをいれた。

次からは、和雅視点の話しになるっぽい。

「和雅が掻き乱されるから楽しそう」

萌季がニヤニヤとケータイをしまった。

頷く私だけど、内心はきがきじゃない。

私の状況と被っている。

なんか怖いって思った。
夏休みはあっという間に来た。

毎日暑い。

私と匠海くんは相変わらずで、埋まらない溝はどんどん深くなって行ってる。

深すぎて底が見えない。

私は今年の夏休みは、今までとは違うことをすることになるために準備で大忙しだった。

「えー刹那ちゃん夏休み中いないの?」

「うん。ちょっとした交換留学みたいなものだから」

「お祭りいけないじゃん」

「ごめんね」

「うんん。秋にもお祭りあるからそっちには行こうね」

「うんありがとう」
「いつ行くの?」

8月3日だよ。

「じゃあ誕生日だけはしようね。あ、でも彼氏と過ごすよね?」

「どうだろう?来なかったらメールするよ」

萌季(もえぎ)は少し眉を寄せて、

「双真さいてー」

と言ってくれた。

私のことを思ってくれる友達がいることが純粋に嬉しく思えた。


8月2日からは地方の学校と交流会ということで、夏休み中向こうの学校で過ごすことになっている。

地方は夏休みはお盆過ぎまでという学校も多く、向こうの学校生活も体験することになる。

戻ってくるのは8月31日。