「嫌だったら、抵抗すれば良いんじゃね?お前、普通にしてんじゃん。それじゃ、当たり前みたいになるし」
「…抵抗したら、どうなるか知ってるくせに」
「お前忘れてね?あのグループの頭、誰だと思ってんの?俺だから」
「じゃあ、あんたが…」
「誘拐を考えた」
そう言って、余裕そうに煙草を吹かす。
悔しくて悔しくて、下唇を噛んだ。
「……こんなことして良いとでも思ってんの?見つかったら、やる気が無いあんたでも…」
「てめぇに、何が分かんだよ」
そう言った彼の表情は、今まで見て来た中で一番恐怖を感じた。
この人、やる気は無くても計画には本気なんだ。
「俺は好きで此処に居る訳じゃねぇ」
「じゃあ…どうして?」
「…うるせぇ」
私から顔を逸すと、彼は煙草を灰皿に押し付けた。
そして、立ち上がる。
「帰る」
「………」
「…あ。そういえば、一応名前訊いておこうかなぁ」
「……日芽」
「ふーん。俺、心」
シン―
そう小さく言った彼は、玄関まで歩いた。
そして、靴を履いてから振り向くと悲しそうに微笑んだ。
「そろそろ警察が本格的に動くから、安心しな」
それだけ言うと、小さな部屋から姿を消した。