目を強く瞑っても、痛みも無ければ音も何も聞こえなかった。
ゆっくりと目を開くと、私はジョウに包まれて背中に手が回っていた。
「…いきなり電話切るし、通じなくなるし。焦ったぞ」
「…ごめん」
それから、ジョウは一言も喋らなくなった。
ジョウを見上げても、ジョウは私の首に顔を埋めていて表情は見えない。
目を泳がせながらも、私もジョウの背中に手を回した。
「…ごめんね」
「明日」
「…え?」
「明日、9時に迎えに来る。自分が必要だと思うものだけ持って来い」
「何処行くの?」
「夏休み最後の日帰り旅行だ!」
私から離れ、にかっと笑ったジョウはそう言った。
「じゃあなっ!」
手を振ると、ジョウは暗い道を進んで行ってしまった。
私は、その後ろ姿が消えるまで、ずっと外に居た。
色の抜けた髪、少し伸びた背、焼けた肌…
きっと、ジョウは、夏休みを満喫してたんだろうな。
私は、何日か無駄に過ごしていた気がする。
「姉ちゃん!」
上から声が降って来た。
見上げると、部屋の窓から顔を出す翔太が居た。
「翔太?」
「ヤバいよ!お父さん、めっちゃ怒ってる!」
小さく、しかしちゃんと耳に届いた言葉は、私を現実に引き戻した。
私は、慌てて家に入った。