あれから、私は浮かれまくりで夕飯の時もお風呂の時も、鼻歌を歌っていた。
「姉ちゃん、うるさいよ」
「はいはい」
翔太の文句すら、軽くかわしてしまうくらい、気持ちは浮いていた……筈なのに。
次の日も、次の日も、彼からの連絡は無かった。
そろそろ、あれは夢だったのではないか、と思い始めた三日目。
机に置いてあった携帯が震え、床に落ちた。
「…もしもーし」
『俺!久し振り!』
「…何の用?」
『冷たっ!何したん?』
「最悪!!」
我慢していた何かが、切れた様な感覚で電話を切った。
携帯をベッドに投げ付け、部屋を出た。
「何処行くの?」
玄関でサンダルを履いている時、階段から降りて来た翔太が言った。
手には、夏休みの宿題であろう問題集を持っていた。
「適当に!頭来た」
「もうご飯だよ」
「帰って来てから食べるし!」
そう言うと、勢いよく扉を閉めて家の前の一本道を走り出した。
何だか、ジョウが分からない。
「…はぁ…はぁ…」
走り続けて、ある小さな公園の噴水付近で息を整えた。
必死で、しかし何に対してなのか分からない。
もう、何も、分からなくなった。
「……日芽?」
突如名前を呼ばれ、肩がビクンと跳ねた。