優斗?

まるで、私の存在すら見えていないような優斗。

いつも、ちゃんと話を聞いていたのに…。

どうして、あの時は聞いてあげられなかったんだろう。


いつも一緒だった相馬とあんな殴り合いのけんかをするって事は、それなりの事情があったはずなのに。

結局、優斗とは口も聞けないまま、中学を卒業した。



「あんなでもね…何もなく、人を殴るような人じゃなかった…。でも、さっきも蒼に…。変わっちゃったのかな…もう、私の知ってる工藤じゃないのかな…。」


蒼は、私の背中をポンポンと叩きながら話を聞いてくれる。


「美月は、ホント、正義感が強すぎるんだろうな。ちゃんと、後から話聞くつもりでいたんだろ?」

「うん…でも、私の行動が、工藤を傷つけたのは間違いないから…。」


あんなにそばにいてくれた人。

私が裏切ったんだよね。



高校に進学した後も、すれ違いざまに話をしようと試みては見るものの、優斗の態度は変わらなかった。

知らない人以下の…空気のような扱い。

存在自体を否定されているようで胸が苦しかった。



「高1の冬…それまで、挨拶すらかわそうとしなかった工藤が、わざわざ教室まで私を呼びに来たの。」

「うん。」

「何が起こって、そうなったのか…全然わからなかったんだけど…でも、ちゃんと話ができるかと思ったら嬉しかった。嬉しかったのに…。」



その時すでに、一人になってしまっていた私にとって、優斗が話をしようとしてくれている事がどれだけ嬉しかったか…。

でも…。

優斗が、私を呼び出した理由。

それがわかったのは、誰もいない体育館に入って少ししてからだった。


「優斗…どうしたの?」

「美月…ごめんな。今まで…」


俯いた優斗。

切ない表情。

私は、今まで1年間の空白を埋める事が出来ると信じてた。


「もう…きっと、お前とは中学の時みたいな関係には戻れない。」


そう言われて、心臓が締め付けられた。


「…なん…で?」


問いかけた私に、返事もせずに、私の腕を掴んだ優斗。

私の後ろから、拓真がそれを追ってくるのが見えた。