どうしよう…


「一人で帰さなくてよかった…」


ボソッと聞こえるかどうか微妙な小さな声で呟く蒼。


「……蒼…ごめんなさ……」


安心したのと同時に涙がボロボロと流れた。


「…泣くな……」


もう、いい加減…私の泣き顔を見慣れてきたのか…。

動揺する事もなく、優しくけれど強い眼差しで私を見つめている。


「あいつ…さっきの工藤とか言う奴なに?」

「…前の学校の……」


言いたくない。

でも、巻き込んでしまったからには…話さないと、蒼は納得してくれないかも。

でも、あんなこと…


「美月が男に怯えてる理由ってアイツ?」

「……」


気づいてる。

そうだよね。

私の怯え方は尋常じゃなかったと、自分でも思う。


「……帰るか」

「え?」


私、まだ話せてない。


「辛い事なんだろ?無理して言わなくていいよ。だから泣くな。」

「…ごめんなさい…」


そんなふうに言われたら…尚更涙が止まらない。

ため息をつきながら、少し躊躇いながら頭をなでてくれた。

やっぱり、不思議な手。


「抱きしめていい?」

「え…わ…っ」


泣きじゃくる私の体をフワッと優しく包み込む。

その体温は、確実に私を落ち着かせていった。

どれくらい、そうしていたかわからない。

蒼は、耳元で『もう怖くない』『大丈夫』と何度も呪文のように繰り返す。

子供でもあやしているように、優しく頭を撫でながら。