私の頭の中からは、すっかり忘れ去られていたストラップ。


「これ、買うの?」

「いや…迷ってた時に、あの人たちが…」

「そっか。」


私が途中まで言うと、蒼は立ち上がり、お店の中に入って行った。

え…今は一人にしないで欲しい…。

そう思いながらも、立ち上がる事が出来ずに、見せに入る蒼を目で追った。

その視線に気づいたのか、蒼は『ここにいる』とでも言うように、私を見て微笑む。

その笑顔を見て、私の心は落ち着きを取り戻す。

戻しに行ってくれたってことだよね?

私は、建物の陰に隠れるようにして、蒼が戻ってきてくれるのを待った。


「はい。」


少しして、戻ってきてくれた蒼の手には、私が握っていたストラップ。

丁寧にタグは切られていた。


「付けて。」

「え?」

「今日、怖い思いさせたお詫び…イヤ?」


お詫びなんて…。

蒼がいなかったことを考えるほうがずっと怖かった。


「いや…かな?」


差し出されるストラップに手を伸ばせずにいる私に、蒼はもう一度問い掛けた。


「ううん…ありがとう…」


ストラップを受け取り、ポケットから携帯を取り出すと、蒼が手を出す。


「貸して、付けるから。」


私の手が、小刻みに震えている事を知ってか知らずか…

蒼は私の手から携帯を取ると、ストラップとにらめっこを始めた。


「とは言ったものの、俺、コレつけるの苦手なんだよね!」


近い…。

蒼の顔と私の携帯は、今にもくっついてしまうんじゃないかと言う距離。

それでも、真剣にストラップをつけようとしてくれている蒼。

ちょっと面白いかも…。

思わずクスクスと笑ってしまった私。

私の小さな声が聞こえたのか、視線は携帯のまま『笑うな!』と怒られてしまった。

なんか…蒼の持ってる空気って不思議…。

自然と笑顔になれる…。

守られてる気分になる…。

どうしてだろう…。