「んじゃさ、今のうちに行っちゃおうよ!」

「は?」


そんなバカな!

今のうちって…。

コイツら明らかにおかしい。

私は、身の危険を感じ、その場から離れようとした。

とりあえず、本屋にいけば、蒼と合流できる。

一歩、足を前に出したとき。


「おい!無視すんなって!」


その声と同時に腕を思い切り掴まれて、前には進めない。


「離してください。」

「買い物付き合ってくれたら離してあげる。」


そんなの絶対嘘だろ!


「そんな買い物付き合う気ありませんから。他あたってください。」


ハッキリと断っているにもかかわらず、腕は離されない。


「来いよ!俺達に声かけてもらえるなんて光栄だぜ?」


頭おかしいんじゃないの?

なんで、アンタなんかに声かけられたことが光栄な事なのよ。

それなら、まだ一人でお茶でもしてたほうが有意義だっつの!


「嫌だって言ってるじゃないですか!」


周りを歩く人たちは、見て見ぬふり…。

私が商品を持ったまま連れて行かれそうになっているのに、店員すらも声をかけようとしない。

どうすればいいの…?

振りほどこうにも、更に力の入る手。

ズリズリと少しずつ引きずられるように私の体が移動し始めたとき、一人の男が声をあげた。


「いてててて!」


下を向いていた私は、声のする方へ顔を上げた。


「蒼…。」

「どこに連れてく気だ?」


その表情は、いつもの蒼からは想像できないくらい…怒りに満ちていた。


「痛い痛い痛い!」


蒼は男の手首を掴み背中にまわしているようだった。

関節技…?


「わかったよ!くそっ!行くぞ!」


その様子を見て、私の腕はもう一人の男から解放された。


「大丈夫か?」

「う…うん…ありがとう…。」


そう言ったあと、膝の力が急激に抜けて、その場に座り込んでしまった。