この雰囲気なら言えるかな…。

蒼が来るまでの一時間の間、私はずっと考えていた。


「ねぇ、蒼?」

「ん?」


私の呼びかけに、笑顔で私を見下ろす蒼。


「あの…この間、蒼が言ってた事なんだけど…」

「この間?」


蒼は、目を丸くして首をかしげていた。

もう、気にしてないってことなのかな…。

それでも、もし誤解されてるんだとしたら、やっぱり話しておきたい。


「あの…詳しい話はできないんだけど…」


私が言いづらそうに話しているのを感じたのか、蒼は足を止めた。


「どっか入ろうか?」


提案してくれたけれど、なるべく手短に話をしたかった私は、それを断った。

近くにあったベンチに腰をかけた蒼は、隣に座るように促した。

私は少し距離を保ちながら、ゆっくりと腰を下ろし、口を開く。


「あの、違うの…『蒼が』じゃなくて、『男の人が』苦手…っていうか…怖くて。その…」


蒼は首を傾げて、私をジッと見ていた。


「俺だけ…じゃなく?」

「…うん」


事情は話せないとしても、ある程度の状況を伝えておかないと、これからを考えると辛くなるのは自分だ。


「男の人に触れられたり、大きな声を出されたりするのがすごく怖い。」

「……」


蒼は少し不安そうな顔をしていた。

視線を逸らした私に、話しは終わりと悟ったのか、ポンッと膝に手をついて勢いよく立ち上がる。


「わかったよ。気をつける…だから、横歩いてくれない?」

「え?」


笑顔で振り返る蒼。


「お前、ずっと斜め後ろ歩いてるから…昨日も言っただろ?迷子になりそうで怖いって!」


私の緊張をほぐすためなのか…。

そういうと、ニカっと笑った蒼の笑顔が印象的だった。