「美月?」


あまりに返事をしない私に、蒼は顔をあげて問いかける。


「他?他は何もないよ!」


意外とあっさり、言うことが出来て、安心した。


「普通の頭痛薬って、二日酔いにも効くのかなぁ?」


それ以上話を詰められると、きっと隠しておけなくなる。

そう思って話題をずらす。

蒼の事を考えて眠れなかったことなんて…言えない。

私の中からも…消去される記憶。


「…ホントに何もなかった?」

「え?」


蒼に背中を向けて、救急箱の中を漁っていた私。

ずらしたはずの話題に戻り、思わず振り向いた。

蒼はジッと私を見ていて。

それが、いつになく真剣な眼差しで…

これ以上目を合わせていたら見透かされそうな…

そんな瞳。

思わず、視線を救急箱に戻した。


「何もないって!なんか記憶戻った?」


記憶が、そんなに簡単に忘れられるものじゃないとよくわかっているはずなのに。

忘れられるものなら、あんなに苦しい想いはしなかった。

返答にドキドキしながら、もう見つかっている頭痛薬をまだ探しているフリをする。

もし、昨日の記憶を思い出したのなら…。

私は、どう接していいかわからない。


「……いや、何もないならいいんだけど…」


よかった…。

それ以上言わないでくれて。

首に触れた温もりが今でも鮮明に蘇るなんて…そんなことない。


「二日酔いに効くとは書いてないけど、飲んでみる?」


水と一緒に頭痛薬を差し出した。

蒼の顔をまともに見ることもできない。


「…悪い。怖かった…よな?」

「え?」