さっきの会話…聞いてたんだ。


「何もおかしいことじゃないわよね?」


トイレの入り口の壁に寄りかかり、得意気に腕を組み見下すような視線で鏡越しの私を見る。


「いいんじゃない?私が何か言うことじゃないし。」


ホントに付き合ってるわけじゃないし…。

ホントに付き合ってたとしても、私の口出す事じゃない気がする。

それをどうするかは蒼が決めること。


「そう…随分余裕なのね。じゃあ、遠慮なくそう呼ばせてもらうわ。」


なんか嫌な感じ…。

私に断る必要なんてないのに。

鼻で笑うように高飛車な態度でトイレを後にする秋野さん。

いちいち言うことが嫌味っぽい!

ってか嫌味なのか…。

自己嫌悪の上に、嫌味が乗っかって、私の心は一気に重たくなった。


ただひたすら、蛇口から流れ出る水をボーッと眺めていた。

この水…どこまで流れていくんだろう。

完璧な現実逃避。

蒼のようにうまく立ち回れたら。

最近は嘘をついているという罪悪感を感じるようになってきた。

大半のクラスメイトは、純粋に私たちをカップルだと思って…。

そして応援してくれてるのがわかるから…。


「水の無駄遣いっ!」


その声と同時に、突然後ろから細く長い腕が出てきて驚いた。

その手はキュッと蛇口を閉めた。


「なにしてんの?」

「茜…」

「いつまでも戻ってこないから」


…どれくらい、ここにいたんだ?


「ごめん!今戻ろうと…」

「後ろから、ずっと見てたんですけど?3分は固まってたよ?」


嘘…

ってか、茜ずっといたの?

洗面台に寄りかかり、茜はため息をついていた。